φの累乗とフィボナッチ数列

檸檬色のトラウマ

筆者の独特の文体が原因で怪文書となっております。お読みの際は十分お気を付けください。

問題

フィボナッチ数列の各項を\(F_n\)とし、\(F_1=F_2=1\)とする。\(\phi\)が\(\phi^2=\phi+1\)を満たす\(1\)より大きい実数であるとき、\(\lim_{n \to \infty}\frac{F_n+1}{F_n}=\phi\)となることを証明せよ。ただし、\(F_n\)の一般項を求め、利用してはいけない。

答えはこれを読み進めた最後に書いておいた。なんなら途中をすっ飛ばしても構わないが、その途中がまさに私がこれに気づいたきっかけなので、ヒントが欲しければ途中を読むのをお勧めする。

√5進法と聞いて_冬の図書館

私の頭が一番冴えるのは文化祭直後から冬の間である。夏のように湿度が高いと頭が碌に動かないし、それでいて気温が低いと猶更である。そういう理由で私はこのアイデアを昨年の暮れ、図書館でルーズリーフに落書きをしていたあの時からずっと温めていた。

昨年の部誌では前部長(当時も今も私のクラスメイトである)が\(n\)進法の\(n\)を\(1\)以上の実数(厳密には\(1\)でさえなければ任意の正の実数で考えられるが)に拡張し、\(\sqrt{5}\)進法なる画期的なものを思いつき、それについて考察を行っていた。

この\(\sqrt{5}\)を\(\phi\)に置き換え、分数について考察しようと思ったのは私の不調と丁度重なる2018年が終わろうとしていた時だった。その時偶々大和駅の近くにできた図書館の一部屋が「自習室」として開放されていたのでそこで古典の勉強をしていた時、ちょうどそれがひと段落したので余ったルーズリーフに色々書き込みながら\(\phi\)の累乗を\(\phi^2=\phi+1\)を代入し続けて\(\phi\)と整数だけで表そうとしていた。こんな風に。

\(\phi^1=\phi+0\)

\(\phi^2=\phi+1\)(\(\phi\)の定義。以下この式を①とする)

\(\phi^3=2\phi+1\)

\(\phi^4=3\phi+2\)

\(\phi^5=5\phi+3\)

\(\vdots\)

この①を適宜移項し\(1=\phi^2-\phi\)の形にして両辺を\(\phi^n\)で割れば、これは

\(\phi-n=\phi-n+2-\phi-n+1\)(この後もこれが滅茶苦茶出てくるので、②とする)

となる。これを延々と代入すれば上に示した\(\phi\)の累乗シリーズを負に拡張できる。つまり、こういうことである。

\(1=0+1\)

\(\phi^{-1}=\phi-1\)

\(\phi^{-2}=-\phi+2\)

\(\phi^{-3}=2\phi-3\)

\(\phi^{-4}=-3\phi+5\)

\(\vdots\)

先ほどから\(\phi\)の累乗の\(\phi\)の係数と定数の両方にフィボナッチ数列が出ている。これが証明のカギになるが、その解説は後で。

それはさておき、この式と②を適宜使えば、どんな実数でも\(\phi\)進法で表せるというわけだ。以下、\(\phi\)進数は\((\phi)\)と添えて表すこととする。

\(2=(\phi)+(-\phi+2)=\phi+\phi^{-2}_=10.01_{(\phi)}\)

\(3=(\phi+1)+(-\phi+2)=\phi^2-\phi^{-2}_=100.01_{(\phi)}\)

しかし、①を代入すれば、この\(3\)には別の表し方があることが分かるだろう。

\(3=(\phi)+(1)+(-\phi+2)=\phi+1-\phi^{-2}_=11.01_{\phi}\)

\(1\)だってそうだ。①の両辺を\(\phi^2\)で割って

\(1=\phi^{-1}+\phi^{-2}=0.11_{(\phi)}\)

とできるし、同様の代入を繰り返せば

\(1=0.1010101\ldots\_{(\phi)}\)

という循環小数も得られる。こんな具合に、どんな数も複数通り に表される。

ここで舞台が一旦変わるので、章を区切ることとする。

半分こと4等分_木曜放課後の教室

年が明けて\(\phi\)進法というおもちゃを無事数学同好会(昨11/16、同好会昇格に伴い数学研究会から改称)に持ち帰った私は先ほどの

\(1=0.1010101\ldots\_{(\phi)}\)

を睨んでいた。これをもっとシンプルな形にできれば…と思っていたのである。が、気づけば簡単なことだ。これを\(\phi\)倍すれば

\(\phi=1.0101010\ldots_{(\phi)}\)

となる。これを先ほどの式に足すと

\(\phi+1=1.1111111\ldots_{(\phi)}\)

が得られる。諸君なら左辺に見覚えがあるだろう。そう、\(\phi^2\)である。もちろんこれを\(\phi^2\)で割るしかない。

\(1=0.0111111\ldots_{(\phi)}\)

ここで、\(2=(\phi)+(-\phi+2)=\phi+\phi^{-2}_=10.01_{(\phi)}\)を思い出す。

ここまでと同様の変換で\(2=1.11_{(\phi)}\)を得れば、割り算で\(\frac{1}{2}\)を\(\phi\)進法で表せる、という算段であった。つまり、

\(\frac{1}{2}=0.01001001001\ldots_{(φ)}=0.00110110110\ldots_{(φ)}\)(①を適用)

というわけだ。実際、この二つを足せば丁度\(1\)だ。

\(\frac{1}{2}=0.01001001001\ldots_{(φ)} =0.00110110110\ldots_{(φ)}\)

あるいは、これを\(3\)桁ごとの区切りとみなせば

として、同様に

\(\frac{1}{2}=0.01000111000\ldots_{(φ)} =0.00111000111\ldots_{(φ)}\)

も導出できるので、後者を更に\(2\)で割れば、

\(\frac{1}{4}=0.00100000100\ldots_{(φ)}= 0.00011000011\ldots_{(φ)}\)

と、\(\frac{1}{4}\)も得られる。\(\frac{1}{n}\)が\(0.00\ldots01000\ldots01000\ldots\)という形で循環する整数は他にも

\(11,29,76,199,521\ldots\)

と無限に存在する。ちなみにこれらを小さい順に並べて数列にすると、最初はさておき各項の差はフィボナッチ数列の連続した\(4\)項の和で表すことができる。つまりこういうことだ。

\(11-4=1+1+2+3\)

\(29-11=2+3+5+8\)

\(76-29=5+8+13+21\)

\(199-76=13+21+34+55\)

\(521-199=34+55+89+144\)

後で循環小数のことを前部長に話したところ、彼が\(\frac{1}{n}\)の\(\phi\)進法での表記を\(n=1000\)までプログラミングで求めて印刷して持ってきた。それを見る限りはいかなる\(n\)についても\(\frac{1}{n}\)が循環小数になるようであったが、残念ながら今の私にはそれについて考察できる程の能力はない。

解答と解説

本題に戻ろう。フィボナッチ数列の連続した二項間の比の証明だ。ここで先ほど渋々割愛した\(\phi\)の累乗に出てくるフィボナッチ数列が活きる。

\(\phi^{-1}=\phi-1\),\(\phi^{-2}=-\phi+2\),\(\phi^{-3}=2\phi-3\),\(\phi^{-4}=-3\phi+5\)

冒頭の問題文に則り各項を\(F_1=F_2=1\)としたうえで\(\phi-1\)以下を\(F_n\)と\(\phi\)で表すと、これはこうなる。

\(φ^{-1}=\phi-1=F_1\phi-F_2\)

\(φ^{-2}=-\phi+2=-F_2\phi+F_3\)

\(φ^{-3}=2\phi-3 =F_3\phi-F_4\)

\(φ^{-4}=-3\phi+5=-F_4\phi+F_5\)

(ちなみに\(F_n\)の\(n\)が負の項を考えると\(F_{-n}=(-1)^nF_n\)となる。これを使ってもよかったが、致命的に余白がないので詳しい説明は割愛する)

皆さんももうお気づきでしょうから、数学的帰納法を使って証明を。

<proof>

\(\phi^{-1}=\phi-1=F_1\phi-F_2,\phi-2=-\phi+2=-F_2\phi+F_3\)

これらは、

\(\phi^{-n}=(-1)^{n+1}F_{n+1}+(-1)^nF_n\phi\)

を満たす。また、

\(\phi^{-k}=(-1)^{k+1}F_{k+1}+(-1)^kF_k\phi\)かつ\(\phi^{-k-1}=(-1)^{k+2}F_{k+2}+(-1){k+1}F_{k+1}\phi\)

のとき、\(\phi^2=\phi+1\)より\(\phi^{-n}=\phi^{-n+2}-\phi^{-n+1}\)なので、

\( \phi^{-k-2}=\phi^{-k}-\phi^{-k-1}\\\\ =(-1)^{k+1}F_{k+1}-(-1)^kF_k\phi-(-1)^{k+2}F_{k+2}+(-1)^{k+1}F_{k+1}\phi\\\\ =(-1)^{k+3}(F_{k+1}+F_{k+2})+(-1)^{k+2}(F_k+F_{k+1})\phi\\\\ =(-1)^{k+3}(F_{k+3})+(-1)^{k+2}(F_{k+2})\phi(\because F_n+F_{n+1}=F_{n+2}) \)

つまり、任意の自然数\(n\)について、\(\phi^{-n}=(-1)_{n+1}F_{n+1}+(-1)^nF_n\phi=|F_{n+1}-F_n\phi|\)

\(\phi>1\)なので、\(\lim_{n \to \infty}⁡\phi^{-n}=0\)より、\(n \to \infty\)のとき\(F_{n+1}-F_n\phi=0\therefore\lim_{n\to\infty}⁡\frac{F_{n+1}}{F_n}=\phi\)

\(Q.E.D.\)

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