電工班長の2wayワイヤレススピーカー製作記

高二電工班長 K

はじめに

こんにちは。昨年度の部誌も見てくださった方はお久しぶりです。2022-23年度電工班長のKです。
私は中1から中2の前半はPC班員として活動し、中2の後半から中3の前半にかけてPC班と電工班を掛け持っていましたが、私が中3のときに引退した先輩の作品を引き継いだことをきっかけに完全に電工班にシフトしました。ですから、私はこの部誌を書いている今までに電子工作を少なくとも3年間やってきたことになります。
その3年間という時間が長いか短いかは人によって感じ方が異なると思いますが、私はその3年間、および物理部員として活動していた4年半の集大成として「2wayワイヤレススピーカー」を作り、文化祭で展示しました。

制作を考えたきっかけは、文化祭の物理部の展示において「光」や「動き」だけでなく「音」という要素も取り入れたいと思ったからです。どういうことかというと、物理部展ではPC班と電工班の展示があり、電工班の展示ではLEDを扱う作品やライントレーサーや自動運転車などの車など、「光」「動き」に着目させる作品が多かったのですが、何かが物足りないと思ってきました。そう、「音」です。聴覚を刺激するものがあることで展示教室の雰囲気作りに貢献します。例年、文化祭の展示でビデオやBGMを流している団体もあるようです。そこで、BGMを流す媒体、すなわちスピーカーを作って展示物にすればよいと思いました。数年前の物理部の展示でも自作スピーカーは展示されていたようですが、それはスピーカーとアンプを組み合わせた「コンポ(コンポーネントステレオ)」というもので、それとは違う形態で展示したいと思い、「2wayワイヤレススピーカー」を作ると決めました。

「2wayワイヤレススピーカー」と聞いても何を指しているのかがわからないと思う方もいると思われますが、それについては次の章で説明します。その説明を見てからこの章に戻っていただけると、単語の1つ1つは難しいかもしれませんが、仕組みはスピーカーとアンプを組み合わせただけでありそこまで難しいものではないということが分かると思います。
しかし、私は多くの人が作っているのと全く同じようなものを作ることにそこまで面白みを感じない人間です。ですから、過去の作品もそうですが、このスピーカーを制作するにあたってもある程度の独創的な点をもたせることを意識したつもりです。(それでも私の電子工作のスキルが高いわけでもなく、スピーカー制作については全くの素人であったので独創性にも限界はありますが…)また、できる限りノイズを載せないようにしたり、メンテナンスしやすくしたりと配線や筐体づくりにもある程度こだわったつもりです。

この部誌を読んでいる小学生の方々には、浅野に入学し物理部に入部すると電子工作(あるいはプログラミング)を学び、その一例としてこのような作品を作ることができるようになるということを知っていただきたいと思います。また、物理部員、特に電工班員には技術継承の一環として目を通してほしいと思います。
この紙版の部誌は、まだ作品の組み立てを終わらせることができていない状態で提出期限を迎えてしまいました。完成形を今すぐ知りたければ、この記事の最後のページのQRコードから、電子版の記事にアクセスしてください。(文化祭当日までに更新できているかわかりませんが)
前置きが長くなってしまいましたが(私の記事では恒例)、どうぞお楽しみください。

※この記事においては、単位の接頭辞「μ(マイクロ)」は「u」と表記しています。例えば、静電容量の単位「μF(マイクロファラッド)」は「uF」と表記しています。

材料

今回の作品制作に使用したものとその費用をまとめています。この表は文化祭1週間前の9月10日であり、電子版では要素が増える可能性があります。
尚、ここでは物理部または家にあって新規購入しなかったものの費用は0円としています。
導線や抵抗器、ネジなどの細かい部品は数えるのが面倒だったため含んでいません。

使用したもの入手元数量費用
ウーファーユニット FaitalPRO 6FE100物理部2¥0
ツイーターユニット Panasonic EAST6PH08F6デジット2¥200
手製空芯コイル 345uH物理部2¥0
手製空芯コイル 780uH物理部2¥0
フィルムコンデンサ 4.7uF物理部2¥0
フィルムコンデンサ 6.2uF物理部2¥0
両面ユニバーサル基板 Dタイプ AE-D-TH物理部2¥0
ファストン端子 #205メス LTO-21T-205N物理部4¥0
ファストン端子 #110メス LTO-01T-110N物理部4¥0
フェルール端子 AI1.5-8BK 100個入(うち数個使用)秋月電子1¥770
パワーアンプキット K-2030DFaitendo1¥1375
3.5mmステレオ-RCA変換ケーブルaitendo1¥165
アルミケース タカチ MB9-6-13秋月電子1¥840
RCAジャック RJ-2290N/W(白)秋月電子1¥90
RCAジャック RJ-2290N/R(赤)秋月電子1¥90
RCAプラグ RP-1580G/W(白)秋月電子1¥120
RCAプラグ RP-1580G/R(赤)秋月電子1¥120
プッシュターミナル 2ピン MPT-2G(A)秋月電子1¥110
プッシュターミナル 4ピン MPT-3G(A)秋月電子1¥240
ナット入り貼付型スペーサー 4個入 AST3-10B秋月電子3¥660
ESP32-DevkitC-32E秋月電子1¥1600
DAコンバーター PCM5102A DIP化キット秋月電子1¥700
オーディオセレクタ NJM2750M秋月電子1¥100
3.5mm小型ステレオミニジャック 基板取付用 ST-005-G物理部1¥0
3.5mm4極ミニジャック パネル取付用 MJ-064H秋月電子1¥90
ボックスヘッダ 10P(2×5) BH-10SG秋月電子4¥80
2×5(10P) リボンケーブル DG01032-0012-01秋月電子2¥320
角型タクトスイッチ 白 R-2009WHシリコンハウス5¥660
タクトスイッチ 12mm グレー TVGP01-G73BB秋月電子1¥30
積層セラミックコンデンサー 1000pF 10個入(うち4個使用) RDER71H102K0K1H03B秋月電子1¥100
積層セラミックコンデンサー 2.2uF RDER71H225K2K1H03B秋月電子2¥50
積層セラミックコンデンサー 0.1uF RDER72A104K1K1H03B物理部6¥0
電解コンデンサ 10uF(10個入) UPM1H100MDD1TA秋月電子1¥80
電源用電解コンデンサ 150uF 63ZLH150M8X20秋月電子3¥120
スイッチングACアダプター 12V2A STD-12020U物理部1¥0
DCDCコンバーター 3.3V1A M78AR033-1秋月電子1¥500
三端子レギュレータ 3.3V100mA NJM78AR033-1秋月電子1¥30
SOT-89変換基板 10枚入 AE-SOT89 (うち1枚のみ使用)秋月電子1¥70
OLEDディスプレイ 0.95インチ 96×64 RGB QT095B1¥0
2.1mm標準DCジャック MJ-21物理部1¥0
ON-OFFスイッチ DS-035デジット1¥10
ターミナルブロック 2P 緑 縦 小 TB111-2-2-E-1-1秋月電子15¥525
ターミナルブロック 2.54mm 2P 青 縦 WJEK254-2.54-02P-122-00A秋月電子1¥25
片面ガラスコンポジット・ユニバーサル基板 Cタイプ物理部1¥0
パワーグリッド・ユニバーサル基板 両面スルーホール Cタイプ秋月電子2¥120
MDF板 450x300x12mmコーナン5¥2735
MDF板 600x300x12mmコーナン1¥690
戸当たりの防音テープ 10mmx2.5mダイソー1¥110
DAT-10 スチール金具 L字 S 4Pダイソー2¥220
ZY145 パッチン錠コーナン3¥1287
キャスター・ゴム 32mm自在Nコーナン4¥560
アルミハンドル シルバー 128mmコーナン1¥598
ハンドル(詳細不明) 256mm1¥0
木部用下塗りスプレー 300mlコーナン1¥1075
コーナークッション 黒コーナン8¥1120
PROACT ラッカースプレー 300ml 黒コーナン2¥478
ゴム足(丸) RF-018 4個入秋月電子1¥100
¥18,963

去年私が制作した7セグ時計のほどではありませんでしたが、かなりの額ですね…
予備として余分に購入したり、買ったけどうまく動かなかったり、購入したあとに仕様変更したりして、購入したけど実際には使わなかった電子部品を含めれば2万5千円を超えると思います。
また、すべてに部費が降りたわけではなく自分のお小遣いで買わなければいけないこともありました。数字を見たくなかったので計算はしていませんが、少なくともお小遣いを9000円は投じたと思います。

回路図

全体の回路図は下図の通りです。
しかしながら、諸事情により試作できていない箇所があり、文化祭までに回路を変更した箇所がある可能性があります。

スピーカーの名前とロゴの決定

回路図のpdfの名前など、そのスピーカーに関わるファイルに付ける名前を決めるのを楽にするため、スピーカーに名前をつけることにしました。
名前を考えるのにはそこまで時間がかかりませんでした。このあとの章に書いてあるのですが、今回のスピーカー制作にはESP32-DevKitCというマイコンボードを使用します。ESP32の「ESP」と「Speaker」をかけて、「ESPeaker」(イーエスピーカー)としました。

その名前に基づいてロゴも考えました。Google Fontsを見ていたところ、Gajraj Oneというフォントが見つかりました。このフォントがロゴに良さそうだと思い、この文字をそのままロゴとして採用することにしました。シンプルで、個人的には気に入っています。

ロゴ

PNGだけでなく、SVG(ベクターファイル)でも保存しました。これで、3Dモデリングをするときにもこのロゴを使うことができるようになりました。

制作

ここからは、制作に直接的には関係ない話やちょっとした知識を交えながら、部分ごとに制作したの様子を細かく書いていきます。

スピーカーユニット

今回制作した2wayスピーカーには、ツイーターユニットとウーファーユニットを使いました。

スピーカーユニットにも多くのメーカーや型番が存在し選択肢が多くあり、スピーカー制作では肝となる部分なので選定には時間がかかりそうな部分ですが、私は選定に時間を掛ける必要がありませんでした。というのも、スピーカーユニットは先輩の過去の作品から取ってきたものであったからです。

まず、ウーファーユニットは数年前に先輩が作っていたスピーカーで、別に作られたアンプと組み合わせて過去に展示されていた(と思われる)2wayスピーカーから取ってきました。

過去の作品のスピーカーの外見 左

右

※ここから暫くはスピーカーユニットの話にそこまで関係がない、制作物のスピーカーシステムに対する評価が記述されますのでここから約数十行の文章に読み入ることは推奨しません。

分解していきます。早速驚いたのは、背面がガムテープで固定されていたことです(しかも布ではなく紙のやつ)。おそらくメンテナンス性を重視してこのようにしたのでしょうが、ガムテープの粘着力が弱いのかそれとも失われたのか、背面のパネルがすぐに外れてしまいます。パッシブネットワークの配線も銅箔を用いて、そのパネルにされていたのですが、パネルの重さに耐えきれず導線の中にははんだ付けが外れたものもありました。

背面を開いた図

中には吸音材としてフェルトがまばらに入っていました。吸音材の役割についても後述します。中にフェルトを入れることは悪いことではないのですが。もう少しバランスよく入れたほうが良いと思いました。
また、このスピーカーのエンクロージャーにはMDF板(後述)が使われています。しかし、この板は木の粉を固めたような素材であるため、水を吸い込みやすいという短所があります。(MDF板だけでなくどの木材もそうですが)コーヒーでもこぼしたらそのシミが一生残ります。実際にそのスピーカーには、なんのシミなのかは不明ですがシミのようなものが残っていました。MDF板は塗装することでそれらを克服することができますが、このスピーカーは塗装がされていませんでした。(自作スピーカーはMDF板であっても塗装されないことがあり、実際に私が行ったとある電子部品店で展示されていたスピーカーも塗装されていなかった。保存時の管理に気をつければ問題ないと思う。)
パッシブネットワークの配線についてですが、コンデンサやインダクタなどの電子部品がマスキングテープや両面テープで無理矢理固定されていました。自重を支えることができずはんだ付けが外れた部品もありました。また、制作者の手で巻かれたと思われるインダクタにはガムテープが巻かれていたのですが、ガムテープを外したときに粘着剤が残り、ベタベタになってしまうのでおすすめはできません。

そのスピーカーシステムに使われていたウーファーユニットを取り出してみます。

取り出したウーファーユニットの写真

ウーファーの導線部分を拡大したところ

スピーカーの導線についてですが、+極と−極のどちらも青く、0.3sq(線径が0.3mm²という意味)と、導線としては細いものがはんだ付けされていました。私としてはこのような配線の方法はおすすめすることができません。
まず導線について。アンプの出力を大きくすればそれだけ流れる電流も大きくなります。しかし、細い導線の耐電流(これ以上流してはいけない、という電流)は低く、0.3sqの導線は7A程度ですから、細い導線にこれ以上の大電流を流すと下手したら燃えます。ですから、スピーカーケーブルには太い導線を使うのがセオリーです。具体的には、0.75sqや、1.25sq、2.0sqほどの太さが良いでしょう。コンポーネントステレオの配線に使われるスピーカーケーブルもこれくらいの太さです。
次にスピーカーユニットと導線の繋げ方について。この作品では導線とスピーカーがはんだ付けされていました。勿論スピーカーユニットと導線をはんだ付けすることもあるとは思います。しかし、はんだ付けすることにはデメリットがあります。スピーカーケーブルの多くは、細い導線を撚り合わせた撚り線と呼ばれるものが使われていますが、心線の1本1本は細くて千切れやすいですから、はんだ付けすると、力がかかったときに根本から切れてしまうか、そうならないにしても心線のうちの数本がはんだ付けの根本から千切れ、異なる電極に当たりショートしてしまうというリスクがあります。また、スピーカーからケーブルを外そうと思っても、ハンダを吸い取る必要があり、メンテナンス性も悪くなります。
さらに、導線の色についても問題があります。このスピーカーでは+極、−極とも青の導線が使われていましたが、色がどちらも同じだと誤って+-を逆に接続してしまいやすくなります。それの何がいけないのかというと、2つのスピーカーを片方が正しく、もう片方を逆接続すると互いに逆の音、すなわち逆位相の音が流れ、音が打ち消されたり、どこから音が流れているかわからない、あまり聞き心地の良くない音が聴こえます。ですから、−極を黒色、+極を黒以外の色(主に赤)を使うのが基本です。そうすることでメンテナンス性も向上します。
このスピーカー1つから複数の筐体制作、配線の悪い点を拝むことができました。物理部は回路ばかりに拘っているという印象があり、回路設計については上級生から教えてもらっているのを見たことがありますが、配線のコツや筐体づくりの技術について教えたり教わったりしているのをあまり見たことがありません。(私はできるだけ筐体づくりの大切さを訴えているつもりなのですが…)筐体づくりの技術というものは物理部内だけでなく電子工作の世界でも疎かにされがちです。

話をウーファーユニットに戻しましょう。このウーファーユニットについて調べてみたところ、イタリアのメーカーであるFaitalPRO6FE100というユニットであることが分かりました。インピーダンス(電気を流したときの電気抵抗の大きさ)が8Ω(オーム)で、口径160mm、質量1.2kgと、やや大きめのウーファーユニットです。秋葉原のスピーカー専門店であるコイズミ無線では、今は売り切れていますが1つ6,009円で売られていたようです。
6FE100の商品詳細ページ
物理部にあったアンプをウーファーユニットに繋げて試しに音を鳴らしてみました。物理部の過酷な環境下で数年間寝かせられていたということもあり音が鳴るか少し不安でしたが、無事音が鳴りました。よかった。

6FE100から音を流しているところ

音質は申し分なく、耳を近づけてみると低音もはっきりと再生されていることが分かりました。音質は期待できそうです。

次はツイーターユニットです。過去に制作された自作スピーカーもウーファーユニット(6FE100)とツイーターユニットの2wayスピーカーだったのですが、ツイーターユニットは振動板が凹んだり割れたりしてしまっていて使い物になりませんでした。

ツイーターユニットの惨状

ツイーターユニットはフルレンジユニットほど入手性はよくありません。しかし物理部内にはもうひとつツイーターユニットがありました。それを入手したのは、2023年3月に実施された部活動見学体験会の日です。来場者が帰った後に片付けをしていたら、その時に行われたテレビの解体ショーで解体された部品の中に、ツイーターユニットがフルレンジユニットと直列接続されているのを2つ見つけました。

3月の部活動見学体験会後の様子 ここでテレビが解体されていた
テレビから取ってきたツイーターユニット

このテレビから取ってきたツイーターユニット(以下:「テレビのツイーター」と表記)のインピーダンスは8Ωですが、その他の仕様は不明でした。
アンプとパッシブネットワークと組み合わせて実際に音も鳴らし、ツイーターユニットとしてこれを採用しようと考えました。
しかし、夏休み中、スピーカー制作の合間に行っていた大阪、日本橋の電子部品店でとある発見をしました。その電子部品店は「デジット」。1F、2Fに"日本最大級"を謳う電子部品である「シリコンハウス」の営業所があるビルの3Fにあります。デジットは、電子部品や、幅広い音響製品を扱っている他、蔵出し電子部品を大特価で扱っている店です。
シリコンハウスと合わせて少なくとも2時間滞在していましたが、秋葉原の電子部品店を凌駕する売り場の広さと豊富な品揃え故、見飽きることが全くありませんでした。

シリコンハウス&デジットの外観

発見とは何かというと、2個200円で売られていた、Panasonic性のツイーターユニット、EAST6PH08F6です。周りにFOSTEX等の有名オーディオメーカーのスピーカーユニットが数千円、数万円という価格で売られている中、200円という安さに衝動買いしてしまいました。これはインピーダンスが6Ω、口径が55mmのツイーターユニットです。

EAST6PH08F6

デジットの通常販売価格は2個1,200円だったそうです。EAST6PH08F6と検索しても殆どヒットせず、Panasonicの製品サイトもなくデータシートもありませんでした。おそらく市場にもう出回っていない製品なのでしょう。

EAST6PH08F6とテレビのツイーターのどちらを採用しようか迷いました。そこで、パッシブネットワーク(後述)の回路を組み、ウーファー出力側に6FE100を繋げ、ツイーター出力側にテレビのツイーター、EAST6PH08F6を繋げて音質を比較しました。このときは制作物用のアンプが完成していなかったので家にあったONKYOのオーディオアンプを使用。
まずテレビのツイーターを繋げて音楽を聞いてみました。所詮はテレビから取ってきたものですから、音質はあまり良くありませんでした。高音が耳をつくように感じられるので、バランスもあまり良くありません。一体となって音が鳴っているようには感じられず、ツイーターユニットとウーファーユニットが独立して音が鳴っているように感じられました。
次に、PanasonicのEAST6PH08F6を繋げて聴いてみました。価格相応、音質がとても良いというわけではなく、音の鮮明さは市販のスピーカーのツイーターユニットの音には敵いません。しかし、高音が耳をつくほど激しすぎず、6FE100との音のバランスも悪くはありません。テレビのツイーターよりも音が良いと感じられたので、EAST6PH08F6を採用することにしました。

次にスピーカーにケーブルを接続します。スピーカーにはアンプの出力によって大電流が流れるので、ケーブルは物理部にあった中でできるだけ太いダブルコードを使いました。ダブルコードとは、2本の導線が境目部分でくっついた導線で、主に電源の配線やスピーカーの配線に使われます。購入したのは1.25sq(断面積1.25mm²)の赤黒ダブルコードで、自動車整備用品メーカーとして有名なamon(エーモン)製で、入手先は千石電商です。約12Aも流すことができるので、過電流を心配する必要はなさそうです。

使用したダブルコード

1.25sqのダブルコードといえば、去年私が巨大LEDデジタル時計を制作したときにも使用しました(詳しくは去年の部誌参照)が、それは秋葉原の某電子部品店で入手した、メーカー不明のリール販売の導線でした。しかし、被膜が硬くて分厚いので裂きにくく、被膜を剥きにくく、圧着端子が入りにくく、扱っていたら爪が痛くなりました。それ以降このようなダブルコードは二度と買わず、amonのようなちゃんとしたメーカーのものを入手しようと思うようになりました。(ただし長さが1~2m程度しか必要ないのであればリール販売での購入を勧めます)
話を戻します。スピーカーユニットには+極と−極があり、+極には赤色、−極には黒色の導線を接続しました。接続にあたっては、はんだ付けではなくファストン端子という圧着端子を使いました。
ファストン端子とは、電線と圧着されたメスの端子を、オスの端子やスピーカー、ACインレット等の端子に挿入しを噛ませるようにして電線を接続するものです。サイズは主に#110、#187、#205、#250があります。

様々なサイズのファストン端子メス

ACインレットとファストン端子

ファストン端子は、スピーカーの+極は#187、−極には#110が使われることが多いです。
これ以上説明してもわからないと思うので、実際に導線をスピーカーに接続した様子を説明します。
その前に、ノイズ対策の為、スピーカーケーブルをクランプを使ってねじりました。実際のところ、スピーカーケーブルはねじられていないものが多いので捻る意味があるのかはわかりません。また、クランプをこのようにして使うのも推奨しません。

スピーカーケーブルをねじっているところ

次に、導線の被膜を剥き、万能電工ペンチのオープンバレル型端子圧着部分を使ってファストン端子を圧着しました。物理部には#187のファストン端子が無かったので、代わりに#205のファストン端子メスを+極側のスピーカーケーブルに圧着しました。マイナス極側には#110を圧着しました。

ファストン端子圧着後の写真

圧着してから気づいたのですが、この導線は1.25sqであり、AWGという規格に直すとAWG16です(AWGは、数字が小さいほど断面積が大きいことを意味する)。しかしながら、#205のファストン端子が圧着できる範囲はAWG22〜18まで、#110に至ってはAWG24〜20です。つまり、導線が太すぎるのです。上の写真に注目すると、上の+極の方はまだ影響がなさそうですが、下のマイナス極の方を見ると、確かに導線が圧着部分に対して太く、芯線のうち数本がはみ出ているのが分かります。
しかしこれでも外れないくらいしっかり固定されています。さらに、ファストン端子カバーというものも売られているのですが、入手性があまり良くないので、代わりに熱収縮チューブを被せ、ドライヤーの風を当てて収縮させました。

ファストン端子に熱収縮チューブで覆った図

これで問題なさそうです。このケーブルを4つ作りました。
そして、左、右用のウーファーユニット、ツイーターユニットにファストン端子合わせて8つ分を接続しました。

ウーファーユニットに接続後

ウーファーユニットは、はんだ付けを外した後という事もあってなかなかファストン端子を挿すことができず、挿すのにかなり力が要りましたが、なんとか接続できました。
しかし、ツイーターの+極のファストン端子が、はめようとしてもすぐに外れてしまいます。原因は明白。#187を使うべきところを一回り大きな#205を使っていたのです。
しかし#187のファストン端子のためだけに秋葉原に買いに行くのも面倒だったので、#205のファストン端子をペンチで力強く握り潰しました。結果、スピーカーの端子とファストン端子が緩みなく接続されました。少し握るのが強すぎたかもしれませんが。
最後に、スピーカーケーブルをパッシブネットワーク(後述)のターミナルブロックに接続するため、フェルール端子というまた別の圧着端子をファストン端子をスピーカーケーブルに接続しました。フェルール端子とは細長い筒状の圧着端子で、導線の被膜部分にフェルール端子を被せて専用の工具で圧着することで、ターミナルに接続したときに導線が断線したりほつれたりするのを防ぎます。
ここで、簡単にフェルール端子の使い方を説明します。
まず、導線を1cm程度被膜し、フェルール端子を差し込みます。

フェルール端子を導線に差し込んだところ

次に、専用のフェルール端子圧着工具でフェルール端子を圧着します。このとき、断面は四角に近い形になります。

圧着しているところ

圧着できました。これでフェルール端子が抜けることはありません。

圧着後

これをスピーカー4つ分、8回繰り返しました。
これにてスピーカー部分とスピーカーケーブル部分は終わりました。

アンプ

アンプ部分の回路 今回制作したのはアクティブスピーカーですので、スピーカー内部にアンプを搭載している必要があります。
まず、アンプを何にするか決めました。スピーカーユニットの定格電力は、ツイーターユニットは40W、ウーファーユニットは100W。ある程度余裕があります。私にゼロからアンプを設計する技術力はないのでアンプキットを使おうと思っていたのですが、秋月電子通商で売られているアンプキットは、出力が大きなものでも10W程度しかありません。アンプの出力がスピーカーユニットの定格電力を下回っていたとしても十分大きな音が出るのですが、スピーカーの性能を持て余したくもありません。千石電商やマルツ、シリコンハウス等のアンプキットは値段が高く、Amazonで売られているアンプキットは製造者がちゃんとした会社でない可能性も高く、電子部品の1つ1つや基板の品質にも不安があったので選択肢には入れませんでした。

そこで、オーディアンプIC単体を買ってデータシートの回路を参考にして回路を組もうと思い、出力30WのステレオD級パワーアンプICであるTPA3118D2を秋月電子通商で買いました。値段は170円、他の店と比べてかなり安いです。ちなみに購入当時、秋月電子通商秋葉原店には在庫が5つしかなく、執筆時点で2つに減っています。私が検索してみた限りでは、秋月以外ではテキサス・インスツルメンツ等の海外の電子部品の通販、もしくはAmazonで売られているアンプキットではんだ付けされている状態でしか手に入れることができず、入手性はあまり良くなさそうでした。
このアンプICは、足が長く基板に挿すことができる(DIP)ものではなく、足が短くて専用の基板の表面の基板にはんだ付けして使う必要がある(SMD)ものでした。パッケージはSSOP32です。
SSOP32と2.54mmピッチのDIP化基板も購入し、表面実装もうまくいきました。

TPA3118D2を変換基板に表面実装

しかし、データシートに書かれていた通りに回路を組み、電源装置のスイッチを入れたのですが、私がどこか読み違えていたのか配線を誤った箇所があったからなのか、回路は動作しませんでした。

実験中の様子

そのまま実験を続けていたところ悲劇が。
突然、アンプICが音とともに火を吹いたのです。

アンプICの亡骸

そもそも、このときはブレッドボードを用いて実験をしており、配線にはジャンパワイヤを使っていました。しかし、そのジャンパワイヤの中には下図のようにどこにも接続されず、ぶら下がっているものがありました。アンプICが火を吹いて壊れてしまった原因は、そのぶら下がっているジャンパワイヤが24Vの電源装置の+極に繋がっており、アンプICの最大でも5Vしか印加することができない端子に触れてしまったからであると考えられます。使わないジャンパワイヤは外すべきだという教訓を得ることができました。

ぶら下がっているジャンパワイヤ

しかし、このスピーカー制作の核である部分は、アンプではなくBluetooth受信部分です。つまり、アンプは何でも良いのです。ということでプライドを捨て、アンプを設計せずアンプキットを組み立てることにしました。

しかし、前に述べたように、秋月電子通商で売られているアンプキットの中で最も高出力なものが10W程度しかありませんでした。
そこで、数時間迷った後aitendoという通販で購入することを決めました。aitendoとは、かつて秋葉原に店を構えていた電子部品店ですが、店舗は閉店しました。(執筆時は)通販に専念しており、ほぼ毎日、新しい商品が複数入荷されています。Arduinoの激安互換機である「びんぼうでいいの」がaitendoの人気商品です。
そのaitendoはオーディオアンプキットの取り扱いも豊富で、選択肢がたくさんありました。
と思ったら、多くのアンプキットは給電が両電源(GNDよりも高い電圧と低い電圧の両方を加える)であり、電源として使われる事が多いスイッチングACアダプターは単電源(GNDよりも高い電圧のみを加える、大抵の場合電源といえばこの形式)なので、両電源のアンプキットは単電源から両電源に変換する回路を組まなければ動作させることができません。自分で回路を設計するのは面倒ですし、aitendoにも変換モジュールは売られているのですが、電圧が低すぎたり電流が小さすぎたりして、性能が足りないものばかりでした。ということで、単電源で使用できるアンプキットを購入することにしました。この時点で選択肢はかなり絞られました。
そして色々迷った後に、★15W+15W★パワーアンプキット[K-2030DF]に決めました。電源は12V〜15Vの単電源です。
回路図は下図です。

回路図

荷物が届いたので、約2週間の夏休みの学校閉鎖期間を経て、部品が全て揃っていることを確認し、マニュアルはないので基板に書かれている数字と写真を見ながら組み立てていきます。

組み立てた写真

裏の写真

付属していた電子部品の多くを商品画像の通りに用いたのですが、ケースに組み込むことを考えて、音量調節用の2連可変抵抗を基板に直接はんだ付けするのではなく、可変抵抗に導線をはんだ付けし、その導線を基板にはんだ付けしました。また、放熱性能を改善するため、ヒートシンクとオペアンプの間に、物理部にあった放熱シートを挟みました。また、3.5mmのステレオジャックを基板にはんだ付けする代わりに左、右チャンネルにターミナルブロックをはんだ付けし、GNDにもターミナルブロックをはんだ付けしました。そうしたのは、アンプの端子に3.5mmのステレオジャックではなくRCAジャックを用いるためです。

ちなみに、ターミナルブロックとは導線の金属部分をはんだ付けではなく主にネジで締め付けたりバネで押さえつけることによって電気的に接続するのに用いられる部品であり、「端子台」とも呼ばれています。このスピーカー制作にも複数箇所に用いられています。下の写真は基板取付け用のターミナルブロックです。

基板取り付け用ターミナルブロック

このアンプキットは電子部品をはんだ付けした基板のみの状態でも使うことができるのですが、ノイズを抑えるためにアルミケースに組み込みます。
秋月電子で買ったタカチのアルミケースに電動ドリルで穴を開け、導線をバネの力で挟んで接続するターミナルである、プッシュターミナルをねじとナットを使って固定し、音量調節用の可変抵抗とRCAジャックのナットを締めました。また、RCAジャックの+と−にそれぞれ単線をはんだ付けし、それらをねじり、入力端子のターミナルブロックに接続しました。
そして、アンプキットの基板の四隅に接着式スペーサーを付けて、接着式スペーサーの両面テープを剥がしてアルミケースに固定しました。両面テープはかなり強力なので、少し衝撃が加わっただけでは剥がれません。

アルミケースにアンプキットを取り付けた図

この状態で、アンプが正常に動作するか一度確認するため、アンプの出力側に物理部にあったスピーカーを繋げ、音楽を流してみたところ、無事に音が流れました。ポップノイズ(電源を入れた瞬間に生じる雑音)はするものの、音質は良く、音楽再生中のノイズはほぼ聞こえませんでした。

試聴している様子

最後に、アルミケースの上面の蓋を被せ、テプラでターミナルに端子の説明を印刷して、完成です。


ここで、RCA端子について少し説明しておきましょう。
RCA端子とは、映像、音声などを伝えるのに用いられることが多い端子で、白色が左チャネルの音声、赤色が右チャネルの音声、黄色が映像の信号の伝達に使われることが多いです。私が作ったアンプには赤色と白色しか使用していません。名前は、アメリカの家電メーカーであるRCAに由来します。
RCAプラグとRCAジャックの形は下の写真のとおりです。

RCAジャック

RCAプラグ

パッシブネットワーク

エンクロージャー

エンクロージャーは音に影響が出る他、スピーカー全体を覆い見た目を決定づける重要な要素です。また、持ち運ぶことや物理部の過酷な環境下に置かれることを考えると頑丈に作る必要があります。どんなにスピーカーやマイコン部分の性能が良くてもエンクロージャーの作りが雑だと意味がありません。

解説した通りエンクロージャーには色々な形態がありますが、私はバスレフ型を選びました。というのも、最初は低音を重視しようとバックロードホーン型やダブルバスレフ型にしようと考えました、しかし、それらはどうしてもサイズが大きくなってしまいます。材料費の出費はできるだけ抑えたいですし、持ち運びを考えてもそこまで大きく重くすることはできず、重量も抑える必要があります。それでも折角自作するのであれば低音が得られるスピーカーを作りたいと思ったので、バスレフ型にしようと思いました。設計は難しいと言われていますが、『スピーカーシステムの設計・製作ができる本』という本を購入したのでそれに書いてあったことに従うことにしました。ちなみにこの本は日本橋電気街にある日本最大級の電子部品店であるシリコンハウス&デジットを営業する共立電子産業株式会社が編集に協力しているそうです。

まず素材を決めました。自作スピーカーのエンクロージャーに使われる定番の素材は木材です。しかし、木材にも様々な種類があります。
まず、集成材。集成材とは、小さな木材を接着剤で張り合わせて1枚の板にした、木材の一種です。割れにくく、加工しやすいのが特徴です。

集成材

また、MDF板も挙げられます。MDF板とは、中密度繊維版の略称であり、木材チップを蒸煮・解繊したものに接着剤とを加え板状に押し固めた木材です。軽量で加工しやすく、安価である反面、吸水しやすく、塗装すると色ムラが生じやすくなります。塗装するのであれば、塗料を塗る前にシーラーを下塗りする必要があります。また、ねじ利きが悪く、ねじを締める前に下穴をあける必要があります。

MDF板

材料費を抑えたかったから、そしてホームセンターでのサイズのバリエーションが豊富であったので、エンクロージャーにはMDF板を使用することを決めました。

次にエンクロージャーの容積を計算しました。容積を計算する時に重要なパラメーターがいくつかあります。
まず1つめが最低共振周波数\(F_s\)です。最低共振周波数とは、スピーカーユニットが低域の音を再生できる限界の周波数で、ウーファーユニットはこの値が低くなります。
データシートによれば、ウーファーユニットの6FE100は\(F_s=61[Hz]\)です。
2つ目は、\(M_{ms}\)です。\(M_{ms}\)とは、スピーカーユニットの振動系の質量で、\(M_{ms}\)が大きいほど低域の音を再生できます。
データシートによれば、6FE100は\(M_{ms}=14.0[g]\)です。
3つ目は、\(Q_{ts}\)です。\(Q_{ts}\)とは、スピーカーユニットの\(F_s\)における共振の鋭さを表す数値で、この数値が大きいほど共振が鋭くなります。バスレフエンクロージャーには0.4<\(Q_{ts}< 0.7\)が適正とされています。
データシートによれば、6FE100は\(Q_{ts}=0.55\)です。
4つ目は、実行振動半径\(a\)で、コーンの半径にエッジの幅の\(\frac{1}{2}\)を足した値です。Fostexのようなメーカーのデータシートにはこのパラメーターが書かれているのですが、FaitalPROのデータシートには書かれていませんでした。そこで、実際に測って\(a=6.9[cm]\)としました。
私が買った本である『スピーカーシステムの設計・製作ができる本』によれば、バスレフ型エンクロージャーの内容積\(V\)は、\(\alpha\)の値を\(0.5<\alpha< 1.5\)で、\(F_s\)、\(M_{ms}\)、\(a\)を用いて、 \[V=\frac{335\times a^4}{\alpha\times F_s^2\times M_{ms}}[L]\] と求められます。値を代入して、 \[V=\frac{335\times 6.9^4}{\alpha\times 61^2\times14.0}\approx\frac{10.79}{\alpha}[L]\] となり、\(V\)は\(0.5<\alpha< 1.5\)であることから、\(V\)の値は\(7.2[L] < V < 21.6[L]\)となります。かなり自由度が高いですね。また、左右のスピーカーユニットの間に仕切りを入れることを当初は計画していました。

ある程度エンクロージャーの形が決まったら、ホームセンターにMDF板を買いに行きました。「ある程度」と書いたのは、ホームセンターで売られているMDF板を漠然としか把握していなかったので、細かいサイズはその場で決めようと思っていたからです。
ホームセンターでは、厚さが12mm、300mm×300mmのMDF板と、450mm×300mmのMDF板を見つけました。これらを組み合わせ、仮に縦×横×高さが300mm×450mm×300mmにした場合、体積は40.5L、半分にすると20.25Lであり、マイコン周辺回路を収めるスペースを広めに取っても余裕があることがわかりました。
そこで、外から見える板6面分として、300mm×300mmのMDF板を2枚、450mm×300mmのMDF板を4枚購入し、スピーカー部分とマイコン部分の仕切りとして450mm×300mmの板を1枚購入しました。合計約3300円です。部費では落ちませんでした。

家に帰ったら、エンクロージャーの寸法を確定させるために3DCADのFusion360を開き、エンクロージャーをモデリングしました。
当初は左と右のスピーカーを仕切りる予定でしたが、仕切らないほうが低音が得られるだろうと考え、仕切りを入れないことにしました。

モデリング後の様子

そして、その3Dモデルをもとに図面ツールを用いて図面を作成しました。

図面

図面のツールにあまり使い慣れていなかったということもあって、出来は微妙です。よく観察すれば分かる程度です。
スピーカーの部分の容積を計算すると、約33.42Lとなり、21.6Lよりも大幅に増えてしまいました。しかし、スピーカー本体の体積やアンプを入れて体積が小さくなることと、スピーカーが2つあることを考えたらちょうど良いと思います。
この図面をもとにMDF板を加工しました。
板のカットにはのこぎりを使い、その都度やすりがけしました。また、穴あけにはジグソーを使いました。

やすりがけしているところ

そして、一通り木材を切り終えました。 木材大集合

ここから木材を組み立てていきます。
MDF板はねじが利きにくいので、板同士の接着には木工用接着剤を使う必要があります。板の断面にボンドを塗って、接着面に貼り合わせてキムワイプでふき取り、クランプで固定しました。
貼り合わせるときは、できるだけ段差が生じないように気を配りました。
クランプは、手で握って固定するタイプで、とても便利でした。

また、クランプの固定が難しい面は、家からとりあえず重いものをかき集めて載せました。

板に荷重がかかっても外れないよう、ダイソーで買ったL字の金具を固定してさらに強度を上げました。

さらに仕切り部分も作り、裏面はこのような感じになりました。

仕切り部分が5mm程度ずれてしまいましたが、それを除けばほとんど段差がなありません。

ここからさらに段差をなくすべく、家にあった木の端材にサンドペーパーを貼ったものを使って削りました。このときは室内で作業をしていたため、部屋が木くずで充満しました。

ここからは塗装です。木屑をエアダスターで飛ばした後、下塗りとして「木部下塗りスプレー」というシーラーをエンクロージャーに塗りました。もちろん屋外でやっています。

1回塗っただけでなく、1時間おきに2回、3回と塗りました。

さらにやすりがけし、上塗りとして黒色のラッカースプレーを塗りました。

3度塗りする予定だったのですが、1階が厚塗りであったというのと、1回の塗装で缶1本300ml分をほぼ使い切ってしまいました。製作費節約のため、300mlの缶を2本使い、2度塗りしました。

1回目塗装後

2回目塗装後

2回塗装すると、光沢が出てきました。
凝視すれば塗りムラがあることがわかりますがほとんど目立たず、高級感のある満足のいく仕上がりになりました。

最後に、取手とパッチン錠、キャスターと後ろの板のパッキンを付けて完成です。もちろんねじを付けるときは下穴をあけておきました。

完成が待ちきれず、ツイーターユニットとスピーカーグリルとバスレフポートを付けてしまいました。

搬出&組み立て

スピーカーのエンクロージャーは家で作っていたのですが、文化祭で展示する以上、当然浅野に持っていく必要があります。そのタイミングについてですが、エンクロージャーが完成したのが夏休みの後半であり、持っていくタイミングは夏休み最後の部活である8月30日に絞られました。というのも、私は通学には必ず鉄道を使うので、スピーカーを持っていくのにも鉄道を利用する必要があります。しかしながらこのスピーカーは300mm×324mm×450mmとサイズがかなり大きく、通勤時間帯に混雑した駅や車両を利用すると多くの通勤客に迷惑がかかるのは勿論、そもそも車両が混みすぎてスピーカーが載らないということもあり得ます。通勤ラッシュを避けることが必要になるのですが、夏休みが終わると、HRの時間である8:35までに登校する事を強いられます。通勤ラッシュを避けるために遅刻するわけにもいきません。それ故、エンクロージャーの搬出は夏休み中がよいと考えました。そして、エンクロージャーが完成して以降の夏休みの活動日が、8/28と8/30しかありませんでした。
このときはマイコン周辺回路は完成していませんでした。スピーカーユニットはこのときは家にあり、すべてエンクロージャーに取り付けてから物理部に運ぶことを考えたのですが、ウーファーユニットの6FE100は質量が1.2kgあります。重量はすでにバスレフポート、ツイーターユニットとそのスピーカーグリルを取り付けた状態で6.4kgあるのに、それに1.2kg/個のウーファーユニットを2つ取り付けると重さが更に増し、運ぶのが大変になります。スピーカーユニットは搬出先の物理部で取り付けたほうが良いのでは、と親から提案されたので、8/28にウーファーユニットを物理部に持っていきました。
物理部に転がしていくことを考えてエンクロージャーの底面にキャスターは付けたのですが、上面の取手が私が直立しているときの手の位置よりも少し低いです。このまま持っていくとなると若干屈みながら転がす必要があります。そこで、家にあったキャリーカートを使って運びました。

使用したキャリーカート

そのキャリーカートにスピーカーをビニール紐でくくり付けて固定しました。塗装面とキャリーカートの金属部分が擦れて塗装が剥がれないよう、底面にタオルを敷きました。
しかしこのままだとスピーカーやバスレフの穴からエンクロージャー内にゴミが入ってしまう可能性がありますし、そもそも通勤客に目立たないように持っていきたいと思っていたので(それでも大きさと色で目立ってしまっていたのですが)、大きな穴がある正面とその隣の面に梱包材をマスキングテープで貼っておきました。

これで準備完了です。

いよいよ搬出当日。スピーカーを車に載せて家の近くの駅まで親に送ってもらいました。車から降りたら、エレベーターの表示に目を光らせながら駅構内を歩いていきました。というのも、私は普段はエレベーターを利用することがありません。重量はエンクロージャーとキャリーカートを合わせて約7kg。満載のスーツケースよりは軽く、階段で運べなくはない重さです。しかし、スピーカーの大きさが大きく、もしかすると階段と擦って傷をつけてしまうかもしれないし、手を滑らせて落としてしまったら洒落になりません。キャスターがついている面が300mm×324mmなので、エスカレーターに乗せることができるとも思えません。エレベーターを使って改札階へ行き、またエレベーターを使ってホームへ行きました。改札は、狭いほうでも無事通りました。
電車がホームにやってきました。この車両は車椅子スペースが先頭車両と最後部車両にしかありませんでした。他のお客様の視線を気にしつつ車両に乗り込みます。通勤ラッシュを避けたことで車両は混んでいませんでした。しかし、もう少し車椅子スペースが増えてほしいものであります。
横浜駅に着きました。エレベーターは混んでいたので乗り換えには階段を使いました。ここからは京浜東北線を使います。朝の通勤時間帯では人でごった返している横浜駅の3・4番線ホームですが、このときは待機列に私以外並んでいなかったほど空いていました。数分待った後、電車がやってきました。車両は勿論E233系。このときも車椅子スペースを利用しました。
横浜駅から北に6分、無事新子安駅に到着しました。
新子安駅から浅野学園までは徒歩です。駅を出たらすぐ跨線橋を渡る必要があります。階段は上りが約70段、下りが約50段あり、7kgの荷物を持っての上り下りは大変です。ということで、普段の登下校では利用することのできないエレベーターを使いました。キャリーカートを引いて歩いていると、荷重を受けて紐が伸びてスピーカーがぐらついてしまい、キャリーカートの車輪幅が狭くて段差でバランスを崩して危うく側面を擦りかけたこともありましたが、咄嗟に持ち上げて回避しました。
立っていた警備員の方に睨むような目で見られながら浅野の敷地へ。打越坂、通称「遅刻坂」を登るのにもそこまで力を使わず、無事物理教室まで運び込むことができました。若干塗装が剥げてしまいましたが、気になるほどではありませんでした。
物理教室についてすぐ、2日前に家から運んでいたウーファーユニット6FE100をMDF板のエンクロージャーににネジ留めしました。

ウーファーユニットをねじ留めしている様子

次に、パッシブネットワークを固定します。パッシブネットワークの固定方法には、コイルもフィルムコンデンサもすべて1枚の基板上に実装してそれをねじで固定する、コイルとフィルムコンデンサを結束バンドで固定してはんだ付けする等色々あります。このスピーカー制作では、パッシブネットワーク1つにつき1つの小さな基板にターミナルブロックをはんだ付けしてそれらをめっき線で繋げ、コイルとフィルムコンデンサを固定するという方法を採用しています。フィルムコンデンサは自重が軽く導線のみで支えることができるため、フィルムコンデンサの両極をターミナルブロックに接続してねじを締めるだけでよいのですが、コイルは数十グラムと重く、また巻かれている為固定のされ方が不安定だとコイルの形が崩れ、インダクタンスに歪みが生じてしまうリスクがあります。そこで、コイルをスピーカーの内部に固定する為、コイルとフィルムコンデンサをネジ留めで固定するための留め具を設計し、3Dプリンターで印刷しました。
コイルは手で巻かれていて形に個体差があるので、留め具の大きさ・形は固定するコイルごとに変えています。

3Dプリンターで印刷した留め具

コイルを固定している様子

同時に、コイルとコンデンサと、スピーカーユニット4つに繋がれたスピーカーケーブルをそれぞれターミナルに接続してネジを締めました。

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悲劇

ここまで制作を進めることができたのですが、ここで悲劇が。文化祭直前、マイコン周辺回路が完成してスピーカーに組み込むことができていないまま、インフルエンザに感染してしまったのです。ちなみに、私以外にも感染者が多くいたからか、今年の文化祭を主催する立場であった高二全体が学年閉鎖になってしまったようです。しかし、このスピーカーはお小遣い9000円と夏の貴重な勉強時間を犠牲にして作っています。絶対に完成させたいのです。
幸いにも常にスピーカー制作に使う電子部品は常に持ち運んでいたため感染したときもそれらは家にあって、部活でプログラミングに使っていたパソコンも夏休みが始まってからずっと家に置いていたため、回路設計やプログラミングやはんだ付け、部誌の執筆等はすることができました。これだけでも大きな救いになったと思います。
そもそも作品制作と部誌の執筆の両方に遅れを取っていたため、マイコン周辺回路の回路の試作が終わったところで提出期限が来てしまいました。これを執筆している時点でスピーカーが完成しているかわかりませんが、残念ながら技術説明部分の執筆はここで手を止めざるを得なくなりました。本来ならこれを書いている辺りにスピーカーを試聴した感想などを書きたかったのですが…

「はじめに」でも書いたように、もし完全版を読みたければ、下のQRコードから部誌の電子版にアクセスしてください。ただし、この紙版の文章は電子版に書き換えられるときに一部が改変されることになると思うので、紙版でしか見られない貴重な文章になると思われます。これはこれで目を通しておくと良いと思います。

ちなみに、インフルエンザは幸運にも発症から2日でほぼ治り、5日間の出席停止は守る必要がありましたが、元気に作業ができるようになりました。

おわりに

まず、製作した感想について。マイコン部分が終わらなかったのは残念ですが、少なくともエンクロージャー部分を作った感想としては、正直なことを言ってしまうと筐体づくりがいい意味で適当な物理部の作品らしからぬ、造形制度の高い、高級感のあるエンクロージャーを作ることができて嬉しく思っています。まだ戦いはこれからですが…
また、この部誌を執筆している過程においても自分の中で曖昧だった知識を調べ直して、部誌で説明することができるように明確に自分の中に定着させ直すことができたという点において大きな学びになったと思います。
入手性の悪いアンプICを購入した翌々日に壊したり、実験中に突然爆音が流れて驚いたり、MDF板を6枚運んでいたらバッグが壊れ全治1ヶ月の切り傷を負ったり、やすりがけをしていただけで腕が筋肉痛になったり、自室が木屑で充満したり、その都度掃除機をかけたことで床に幾多もの掃除機痕が残ったり、この作品制作で自分の懐からおよそ1万円が消えたり…列挙してもきりがないくらいこのスピーカー制作には大変なことがあったのですが、このような創作活動にはこのような苦難はつきものです。色々なことを学ぶことができたと思います。
次は部誌の執筆について。色々なことを書こうと思ったら、文字数が23000文字まで膨らんでしまいました。画像も80枚近くあります。制作が遅れてしまったため、提出期限を守ることもできませんでした…
これでも夏休みの後半から書き続け、文化祭2週間前になってからは毎日1000字ずつ加筆し続けていたんですよね…文字数のみで見れば、毎日読書感想文を書いているようなものです。
しかし、提出期限ギリギリまで急いで記事を仕上げようとしたのですが、敢えなく提出期限を過ぎてしまいました…「敢えなく」とか書いていますがもう少し早い段階から急ぎ始めなかった私が100%悪いです。史上最長クラスの記事を書くと自分で宣言していたのですから、提出期限から逆算し、自分の乏しい執筆力を過信せずに、早い段階から地道に書き進めておくべきだったのです。そもそも1000文字書くのに2時間かかっていたのですから。文字数が1000文字程度の数分で読める記事だったらまだ良いのです(提出期限を守らない事自体よくないことなのだが)。23000文字の記事の提出期限を守らない人間など、編集担当の重労働を遅らせている害悪でしかありません。12000文字の記事を書いた去年の教訓はどこへやら。編集の方には大変申し訳無いことをしてしまったと自省しています。皆さんはこんな先輩にはならないようにしましょう。
少なくとも現役生として寄稿できるのはこれが最後です。提出期限がギリギリになってしまっておわりにもこのように手抜きなのですが、読んでいただきありがとうございました!

p.s.後輩たちへ
このスピーカーは文化祭の展示だけではなく日常的な使用も考えて制作したので、普段の活動中にBGMを流すのに使ってくれたら私が喜びます。

参考文献

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